我が家の庭にはね、毎年春になると桜のような花を咲かせる、高さが2メートルくらいある木が植わっているんだけどさ、これが一体何の木なのかがかれこれ10年以上も分からなかったんだ。
ガーデニングが趣味のご近所さんは桃の木じゃないかなって言うんだけど、そんな美味しそうな実のなる木じゃないんだよね。
いやさ、確かに実は成るんだけど、なんかそんなに大きな実じゃないし、せいぜいスモモぐらいの大きさの実で、地面に落ちちゃったヤツなんかは放っておくとアーモンドみたいな感じにカッチカチになっちゃうんだよ。
でさ、アーモンドの花と桜の花って似てるんだって話を読んだんだよ。なんかお天気サイトで春の花を特集してた記事に、そんなようなことが書いてあったんだ。で、そこに載ってた写真を見たらさ、これが我が家のその木とまったく同じ花で、ワシは確信したんだよ。「これはアーモンドの木だったんだな!」ってね。
以降ワシはその木のことをずっとアーモンドの木だと思って生きてきた訳なんだけど、先日ひょんなことから植木屋さんを呼んだら「ああ、これはおそらくハナモモですね~。」って言われて「えっ!?」ってなったよ。
「花が似てるんですよね~。」
「実は食べる用じゃないんですよ~!」
だってさ。
マジか。桜でもアーモンドの木でも桃の木でもなく、ハナモモだったとは。そんなの分かるわけねぇじゃねぇか。まあ、綺麗な花が咲く品種で良かったなとは思ったけどね。
でね、もっと分からないのは、それが植えてある場所なんだよ。この木はなぜか我が家の軒下の、エアコンの室外機の前っていう、なんだかよく分からない場所に植えてあるんだよね。これはどう考えても不自然なんだよ。
我が家は普通の住宅地に建っている普通の建て売り住宅なんだけどさ、この家は親が中古で買った家でね、新築ではないんだ。で、以前に住んでいた元の家主って言うのが、これまた普通の子育て世帯でね、この木を植えたのが前の住人だってのは確かなことなんだ。
でさ、思い出したんだよ。家の近くにある小学校が、確か入学式の時、生徒に『花の成る木の苗木』を入学祝いとしてプレゼントしてたなって事をね。これはもちろん『新一年生の健やかな成長を願って』っていう意味が込められていて、とても良いサプライズな訳なんだけどさ、もしかしたら我が家のこのハナモモは「それ」なんじゃないのかな。
前の住人が貰った苗木を親子で植えたって考えれば、変な所に植えてあるのも納得できるし、木の成長具合を考えてみても時期的に一致するんだよね。絶対そうだよ!(なんか新一年生の子が頑張って植えてる姿を想像すると微笑ましいな…)
いや、何でそんな小学校の行事の細部を熟知してるのかっていうとね、その小学校っていうのがさ、実はワシの母校なんだよね。で、ワシもそこに入学したとき貰ったのさ。その苗木をね。
その頃はおじいちゃんの家に住んでいたから、ワシが貰った苗木は、確かそのおじいちゃんの家の庭に植えたんだ。で、程なくして枯れたんだよ。最悪だよね。
今考えると、あの苗木を枯らしてしまったからワシの人生もこんなドン底まで落ちてしまったのかなって、ちょっと思ったりするよ。なんせ『新一年生の健やかな成長を願って』と贈られた苗木な訳だから。
そう考えると、我が家の庭のハナモモも、ジャマだからって理由で簡単に切ってしまっていい木ではないって事になるよね。前の家主の子供なんて、顔も知らない赤の他人に過ぎない訳だけどさ、それでも子供の成長を願って植えられた木だって思ったら、そう簡単には切れないよね。ワシにも良心っていうものがあるからさ。